御曹司は偽婚約者を独占したい
「怪しいなぁ……。まぁでも、とりあえず美咲さんが無事なら良かったですけど……油断しないほうがいいですよ」
「ゆ、油断?」
「そう。だってさぁ、美咲さんって隙だらけだし。お人好しだから、弱みに付け込まれたりして、とんでもないことに巻き込まれたり──」
「あ……」
そのとき、腕にかけたトートバッグの中で携帯電話が震えた。
慌てて手に取って見てみると、近衛さんの名前が表示されている。
「ご、ごめん、またね……! お疲れ様!」
「あ……っ」
顔の前で手を合わせ、挨拶を告げた私はスタッフルームをあとにした。
そしてマスターにも挨拶を済ませ裏口から外に出ると、改めて届いた内容をチェックする。
【仕事は終わったか?】
たった一言、メッセージが届いていた。
近衛さんらしいと言えばらしいけれど、初めて届いたメッセージにしては味気ない。