御曹司は偽婚約者を独占したい
「もう……ビックリさせないでよ」
けれど、そう思うのに、ドキドキと胸を高鳴らせている自分がいた。
確かに昨日、別れ際に今日は仕事だと話したから、こんなメッセージが届いてもおかしくはないけれど……。
これが、彼からのメッセージだと思うと、どうしてか落ち着かなくて、緊張してしまう。
「〝今、ちょうど終わったところです〟……と」
とりあえず、そつのない返信をした。
近衛さんは、今日はパレットに来店していない。
彼が来店するのは決まって平日の閉店間際で、休日に訪れることはこれまでも一度もなかった。
昨日は偽者の婚約者を務めてくれと言われて承諾し、彼と連絡先の交換をした。
パーティーの詳細に関してはまた追々話をするとは言われたけれど、本当に連絡が来るのかどうかは半信半疑だったのだ。
「とりあえず、あの話は本当だったってことかな……」
ぽつりと呟いて、色をなくした画面を見つめる。
昨日は近衛さんと別れて家に帰ったあとで、自分は彼にからかわれたのかもしれない……なんてことを考えていたら、なかなか寝付けなかった。
だって、偽者の婚約者をしてほしいなんておかしな話だ。
それを彼が私に頼んできたことも、もっと不思議でおかしな話だと思う。
昨日はまだ仕事もあったし、パレットに戻らなくてはいけなかったから、詳しい事情は聴けなかったけれど……。
もし、次に会う機会があったら聞いてみよう。