御曹司は偽婚約者を独占したい
 

「そんな格好でコンビニの中に入って、どんなサービスをするつもりだ?」

「え……あ……っ、嘘っ! 私、気がつかなくて……!」


改めて指摘され、私はたった今かけてもらったばかりのコートの前を、手繰り寄せた。

恥ずかしい……! 穴があったら入りたいとはこのことだ。

近衛さんにみっともない姿を見られたことも、言われるまで気付かなかったことも、どちらもどうしようもなく恥ずかしかった。


「お、お目汚しを、すみません……」


彼の顔が見られなくなって俯くと、先程かき上げた濡れた髪が、額にぺたりと落ちてくる。


「別に謝られるようなことではないけど、君のフィアンセとしては、そういう姿は他の男には見せたくないな」

「え……っ」

「それはそうだろう。大切な女性(ひと)の乱れた姿を見るのは、ベッドの上だけでいい」


そう言うと、近衛さんは綺麗な指先で、額に落ちた私の濡れた髪を持ち上げた。

ふっと口角を上げて笑った彼の魅惑的な瞳に吸い込まれて、思わず言葉を失ってしまう。


「……お望みなら、ベッド以外の場所でもいいけど」

「あ、え……う、そっ、それはっ、結構です……っ! 間に合ってます……っ‼」


耳元に唇を寄せて甘い声で囁かれ、今度こそ私は飛び跳ねて後ろにあとじさった。

心臓が、爆発しそうだ。

そんな私を見てクスクスと笑いだした彼を前に、からかわれたのだと気付いて耳まで顔が熱くなる。

 
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