御曹司は偽婚約者を独占したい
「さっきメッセージを送っただろう。見てないのか?」
「え……でも、あれは……」
言われて慌てて鞄の中から携帯電話を取り出した私は、メッセージの画面を開いた。
見れば確かに、近衛さんからの未読メッセージが一件届いている。
【仕事は終わったか?】という質問に、【今、終わったところです】と答えた私に対しての返信だ。
【じゃあ、今から迎えに行く】という、端的な内容だった。
「す、すみません。私、気がつかなくて……」
メッセージを確認してから背の高い近衛さんを見上げると、再びやわらかな笑みを浮かべた彼が、ゆっくりと口を開いた。
「別にいい。結果、こうして会えたしな。でも、次からは確認してから店を出るべきだ。俺の迎えを待っていれば、今みたいに濡れなくても済んだだろう?」
たしなめるように言われて「はい……」と答えた私は、急にハタと我に返った。
確かに迎えに行くと書かれたメッセージは届いているけれど。そもそも、彼はどうして私を迎えに来たのだろう。
今日、彼と何か約束をしていたわけではないし、彼と会う予定もなかった。
仮に彼と会う予定なら、もう少しマシな服装をしてきたのに。