御曹司は偽婚約者を独占したい
 

「……っ、くしゅっ」


けれど、呑気に考え込んでいたら、いよいよ寒気で身体が震えた。

私は着ている服を急いで脱ぐと、バスルームの扉を開けた。

コンビニから歩いて約十分ほどの距離にあった近衛さんの家は、地上三十五階建の、タワーマンションの一室だった。

シックな佇まいの高級マンションだ。

1SLDKの間取りのリビングは約二十畳ほどの広さで、内装はポートランドテイストにまとめられていた。

L字型の大きなソファがひとつと、壁掛けテレビ、ローテーブル。ダイニングテーブルに観葉植物。

近衛さんは必要最低限しか物を置かない主義らしく、あまり生活感の感じられない部屋だと思った。

まるでモデルルームみたいですね……と呟いた私に、彼は「新鮮な感想だな」と笑っていたけれど、家具と雑貨はヴィンテージ感のあるもので統一されていたから、一応、彼なりのこだわりもあるのだろう。

さすがにベッドルームまで覗くことはできなかったけれど、きっと、そちらの部屋もモデルルームみたいなんだろうな……なんて。

そんなことを考えたら頬が熱くなって、私は煩悩を流すように頭から熱いシャワーをかぶった。

 
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