御曹司は偽婚約者を独占したい
「美咲?」
再び名前を呼ばれて、私は真っすぐに顔を上げた。
「……あと、ひとつだけ、質問してもいいですか?」
「うん?」
「近衛さんがさっき口にした、〝私に惹かれた理由〟ってなんですか?」
尋ねると、近衛さんが驚いたように目を丸くした。
先程彼は、私の夢と父のお店の話を聞いて、『君に惹かれた理由が、今、ハッキリとわかった』と言ったのだ。
その後すぐに、彼のお父様の話になって、その言葉の真意を聞くことはできなかったから……。
例えこれから言われることが彼の仕事に必要な嘘だとしても、聞かずにはいられなかった。
「それは……似ているな、と思ったんだ」
「え?」
「美咲の夢に対する考え方や、父親が築いたものに縋らず、自分の夢を見つけて努力しようとする姿勢が──俺の上司に、似ていると思った」
けれど、返ってきたのは予想外の答えだった。
それに今度は、私が目を丸くする。
近衛さんの上司──つまり、ルーナの社長に、私が似ているということを、彼は暗に言っているのだ。