御曹司は偽婚約者を独占したい
 

「美咲の言うとおり、友人としてアイツを褒めるのは不本意だが、秘書としての俺は、社長である湊を尊敬している」


「そうでなきゃ、ついていこうとも思わないしな」と、続けた彼は呆れたように笑ってみせた。


「でも、私とルーナの社長が似ているなんて……」

「似てるよ。一見穏やかそうなのに、芯の通った想いを胸に秘めてるところが、よく似てる」


「ふたりとも、頑固なんだろう」と、続けて言った彼の目があまりに優しかったから、それ以上、言葉を返すことはできなかった。


「どうして自分が、君にこんなにも惹かれるのか、ハッキリとわからなかったんだ。でも、先程の美咲の話を聞いて、ようやく確信が持てたからスッキリした」


そう言う近衛さんの表情と言葉からは、一切の迷いが感じられない。

どこまでが嘘で、真実なのか。

一瞬考え込みそうになってしまったけれど、彼の予想外の答えに、私はつい、笑わずにはいられなかった。


「ふふっ……。近衛さんは、ルーナの社長のことがお好きなんですね」

「嫌いなやつに仕えるほど、俺はお人好しじゃないからな。だけど、アイツを抱きたいとは思わないし、俺にそういう趣味はない」

「ん……っ」


言いながら、彼は再び私が着ているシャツの裾から手を忍ばせた。

思わず身をよじれば、耳元に綺麗な唇を寄せられる。

 
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