御曹司は偽婚約者を独占したい
「うん?」
「ここだと……さすがに恥ずかしいので、できれば、ベッドだと嬉しいです」
キッチンの大理石の冷たさと、近衛さんの溶けるような甘い熱がやけに対象的で、クラクラしてしまう。
「そ、そんなに、見せられた身体でもないので、明かりも暗くしてもらえると嬉しいで──」
「嬉しいです」と、言い終えるより先に唇を塞がれて、続く言葉を声にすることは叶わなかった。
「ん……っ」
口の中には先程飲んだコーヒーの苦味と、彼に与えられる砂糖よりも甘い熱が広がっていく。
キスだけで腰が砕けそうで、口端からは自然と声が漏れてしまう。
私は彼のシャツを掴んで、彼から与えられる熱についていくのがやっとだった。
好きです──なんて、声に出しては言えないけれど、こうして彼とキスをするだけで、伝わればいいのになんて願ってしまう。
「……煽られると、余計にここで虐めてやりたくなる」
「──っ、え?」
「美咲が可愛すぎて、ベッドまで行く時間すら勿体無い」
告げられた言葉に返す言葉を失うと、彼の指先がシャツのボタンの最後のひとつを、そっと外した。