御曹司は偽婚約者を独占したい
「お、おはようございます……」
「今更隠しても、意味がないだろう?」
「昨日、全部見たのに」なんて続けた彼は、胸ポケットからタバコを取り出しかけて、手を止めた。
た、確かに全部見たし、見せたけど……!
でも、そういう問題ではない。
冷静になってしまうと余計に昨夜のことが生々しく思い出されて、顔が沸騰したように熱くなった。
「タ……タバコ、吸われるんですね……。大丈夫なので、吸ってください……」
「いや、やめておく。美咲にタバコの匂いはつけたくないしな」
けれど、必死に話題を変えた私とは裏腹に、いつもとなんら変わりのない様子の近衛さんは、フッと小さく息を吐いた。
「昨夜、君を抱いて気がついたけど、美咲は髪からもコーヒーの香りがするな」
言いながら伸びてきた手が、私の髪をすくい上げた。
それをくるくると面白そうに指先で遊ぶ彼を前に、また頬が熱くなる。
「美咲の香りは、嫌いじゃない」
彼が動くたびにベッドのスプリングが唸って、昨夜の情事を思い出した。