御曹司は偽婚約者を独占したい
──私は昨夜、彼に抱かれた。
何度も頭の中が真っ白になるほど溶かされて、数え切れないほどのキスをした。
憧れの彼と一夜をともにして、冷静でいられるほど私の乙女心は枯れていないのだ。
だけど、近衛さんは余裕たっぷりで……。
きっと、昨日のことなんて彼からすれば大したことではないのだろう。
いつもと変わらない彼の様子が、私との温度差をありありと感じさせ、わかっていても胸の奥がチクリと痛んだ。
「近衛さんは……普通ですね」
「うん?」
「いえ……なんでもありません」
そっと睫毛を伏せた私は、心の中で自嘲した。
近衛さんほどの人なら女の子は引く手あまただろうし、こんな状況にも慣れているのかもしれない。
だから、『私は、未だに夢を見ているみたいです』なんて、口に出しては言えなくなった。
そもそも、期間限定のフィアンセでもいいと割り切って、彼と寝たのだ。
今更、私に傷つく資格なんてない。