御曹司は偽婚約者を独占したい
「……そんな顔をしたら、また鳴かせたくなる」
「え……?」
「美咲の切ない声は、癖になる。どれだけ聞いていても飽きなそうだ」
ゆるく目を細めた彼の笑顔は色っぽく、今度は身体まで熱くなった。
──近衛さんは、イジワルだ。
きっと私の気持ちもすべて見透かした上で、からかっているに違いない。
返事に困って固まっていると、近衛さんは息をこぼすように笑った。
「冗談だ。さすがに疲れただろう? 結局、手加減してやれずに、朝まで鳴かせっぱなしだったからな」
彼の言葉の通り、昨夜は自分が自分ではなくなるくらい、何度も彼に溶かされた。
もう許してと私が懇願するほど彼は熱を増していき、キッチリと整えられていたシーツは波打つように乱れてしまった。
「せっかくだから、どこかでモーニングでも……と思ったけど、出掛ける頃にはランチも怪しい時間だな」
「え……」
言われて、改めてサイドテーブルに置かれた時計を見てみると、時刻は十三時半を過ぎた頃だった。
よほど疲れていたらしい。昼過ぎまで寝ているなんて、いつぶりだろう。