御曹司は偽婚約者を独占したい
* * *
「……すみません、結局、一式買っていただいて」
シャワーを浴びて身支度を済ませ、コーヒーを飲み終えた私たちは予定通りに、マンションを出た。
向かったのは、銀座の一等地にあるブティックだった。
きらびやかな外観と、徹底された接客。意匠を凝らしたエレガントな空間が印象的な、誰もが知るハイブランドのお店だ。
お店に入る前は、まさかこんなところでドレスを買うのかと気後れした。
けれど、固まる私を優雅にエスコートしてくれた近衛さんに連れられて、私は店内に足を踏み入れた。
そして一通りの買い物を済ませた私たちは、お店を出て、彼の愛車を停めたパーキングまで歩いているところだった。
「こちらの事情で急遽必要になったものなんだから、美咲が謝ることじゃないだろう」
「でも……」
「俺が買ってやりたかったんだ。すべて、美咲にとてもよく似合っていたからな」
お世辞だとわかっていても、彼に言われると嬉しくて頬が赤く染まる。
彼が持ってくれているショッパーバッグの中には、当初買う予定だったドレスだけでなく、ドレスに合った靴から、バッグに装飾品までの一式が揃っていた。
店員さんにオススメされたドレスはどれも素敵なデザインで、試着させてもらっただけで特別な気持ちになれた。
だけどお値段を確認したところ、いつも自分が買う服よりもゼロが二つも多くて目を見張った。
私の月収、約二ヶ月分だ。
さすがに、こんなに高額な品を買ってもらうわけにはいかないから、なんとか別のものを──と思ったのだけれど、近衛さんはそれを許さなかった。
『このドレスに合う靴や小物、すべて一式揃えてくれ』
そう言って、一通り私に試着させると気に入ったかどうかを確認し、さっさとお会計を済ませてしまったのだ。