御曹司は偽婚約者を独占したい
「休日にお電話が掛かってくるくらいだから、大切な要件に違いないです。今日は、ありがとうございました。お仕事、がんばってくださいね」
ペコリと頭を下げて、彼が持ってくれていた荷物を受け取った。
けれど近衛さんは、なにかを考え込むようにしたあとで自身の腕時計を確認し、改めて私に向き直る。
「近衛さん?」
「頼まれた書類は、ルーナの本社にある。本社は目と鼻の先だし、届け先は車で片道十五分ほどの場所だ。だから、今から書類を取りに行って届けて戻ってきたとしても、一時間ほどで済む」
「え……」
思いもよらない言葉に、きょとんと目を丸くした。
すると近衛さんは続けて私の腰に手を添え、道路を挟んだ向かい側にあるコーヒーショップを顎で差した。
「そこのコーヒーショップで、一時間ほど時間を潰していてくれないか?」
「え?」
「すぐ戻る。本当は、銀座でショッピングでもしていて……と言いたいところだけど、心配なこともあるし、用心に越したことはないからな」
──心配なこと。
それはきっと、クロスケさんの件を言っているのだろう。
さすがにもうないとは信じたいけれど、また私がクロスケさんに、なにかされるのではないかと危惧してのことだ。