きみの知らないラブソング
文化祭が終了するまで、約一時間。
シフトが交代した。広菜は、販売を終えた陽加や他の友達と何やら話をして盛り上がっている。
茉衣は教室の端にある二人掛けの席に一人腰掛けた。
頬杖をついて辺りを見回していた。
が、朝からはしゃぎ過ぎたせいか、はたまた販売の疲れか。急に眠気が襲ってきた。
重い瞼を閉じないように何とか保つ。
「まーい!」
うとうとしてしまっていた。耳元で声が響く。
反射的に声のするほうへ目を向けると、向かいの席には優しく微笑む優太がいた。
「あっ、優太」
寝顔を見られていたと思うと恥ずかし過ぎる。
顔が尋常じゃなく熱を帯びた。
「寝てたの?せっかくの文化祭なのに」
優太は相変わらず優しい顔をしている。一日の疲れなんてまるで感じさせないみたいだ。
それに比べて茉衣は随分と萎れた顔をしているだろう。
「・・・販売したら疲れちゃって」
「あれ、茉衣ってシフト入ってたっけ?」
「ううん、手伝ってただけ」
「なるほどね、それはお疲れさま!」
納得したように優太が頷く。
優太もまた、今日は仕事がなく自由だったはずだ。優太に今日のことを聞いた。
お互いの話をしては笑い合った。
たった半日離れていただけなのに、優太の話は知らないことや気になることだらけだ。
だから、優太といると楽しい。
優太に惹きつけられる。
話していると時間が経つのを忘れてしまう。
廊下を過ぎていく人波も減ったようだ。