きみの知らないラブソング
考査一週間前。
部活動も停止期間に入り、下校時刻のいつもの騒がしさはどこかへと消えた。
昇降口で靴を履き替えて陽射しの下へ出る。
時刻は四時になる頃だ。
夏の太陽が嫌になるほど眩しかった。
茉衣の家は学校から徒歩15分程度のところにある。
決して近くはない。
暑さの中、その距離を歩くのは一苦労だ。
大通りを真っ直ぐ進み、茉衣の家に着いた。
「適当に座ってて」
部屋に入りお決まりの一言を放った。
ほとんどそれと同時に広菜がソファに座り込む。広菜曰く、茉衣の家のソファは座り心地が絶妙らしいが茉衣にはよく分からない。
額にはまだ、じんわりと汗が滲んでいる。
「はい、麦茶ね」
机にコップを二つ並べる。
並んだコップの中で氷がカラン、と動いた。
夏の音がした。
キンキンに冷えた麦茶を勢いよく口に流し込む。
体中が一気に爽快感に包まれた。
まるで仕事終わりにビールでも飲んだかのように、ああ、と声にならない声を発する。
二人は麦茶のお供にいくらかのお菓子を口にしながら、少しの時間休む。幸せな時間だ。
暑さが落ち着くまでは勉強する気も起きない。
「広菜、そろそろやろっか」
最後のクッキーを口に含んだ茉衣が言う。
広菜は苦笑いを浮かべつつ、教材を開き始めた。いかにも渋々という表現が似合うようなスピードで。