きみの知らないラブソング
何となく外の気配が静まった気がする。
烏が鳴いている。
妙に切なげに響いていた。
あの話を聞いてから、茉衣は落ち着いていられなかった。コップに手を伸ばしては戻す動作を何度も繰り返す。そわそわしてどうしようもなかった。
気がつけば広菜の帰る時間だ。
広菜が荷物をまとめ、立ち上がる。
玄関まで一緒に向かった。
「じゃあね、茉衣!今日はありがとう」
「ううん、こちらこそ」
靴を履きながら当たり障りのない会話を交わす。
広菜のことは大好きだ。
だけど今日は広菜の顔を見ると胸が苦しくなる。
作り笑いしかできなかった。
勉強のことなんてもう頭にはないのだろう。
話ができてすっきりした、とでも言うような笑顔で広菜が手を振る。
その背中に切なさは見えなかった。
広菜の後ろ姿を見送る。体だけがそうしているだけで、何かを考える余裕は茉衣にはなかった。
まだ少し明るい夏空は憎らしいほど綺麗だった。