青いチェリーは熟れることを知らない①
「……っ!」

 まさか瑞貴がそんなことを言い出すとは思わず、大きく目を見開いた鳥居は冷静さを装いながら彼に助言する。

「どこのコンビニかわかりませんし、入れ違いになったらどうするつもりです? 土地勘のないチェリーサンはたぶんここに戻って来ると俺は思いますけどね」

「…………」

 鳥居の言うことはもっともだ。
 コンビニに出掛けたかも不明な今は、無理に動いてすれ違ってしまえばより一層離れている時間は長くなってしまう。
 押し黙ってしまった瑞貴と鳥居を見つめていた長谷川が申し訳なさそうに重い口を開いた。

「……ごめんねぇ、ふたりとも。うちらが居たらちえりっちも戻りにくいよね……。って更に言いにくいんだけど、桜田っち駅まで送ってくんない? ここらへん似てる建物多いからさ~」

「……!!」

(ナイスだ! 長谷川っ!!)

 心の中で親指を立ててグッド! をした鳥居は滅多に他人を褒めることはないが、この時ばかりは直属の上司である長谷川を感心した眼差しで見つめている。

「……駅まで検索すりゃ帰れるだろ」
 
 苛立ちも相まって言葉使いが乱暴になってきている瑞貴。そんな彼を目にするのは鳥居以外は珍しく、その元凶である三浦は気まずそうに視線を逸らして壁の傍に立っていた。

「あー、いまあの駅って改築中なんですよね。ここから行くと南口は迂回しなきゃいけないはずなので――」

 瑞貴が一時(いっとき)でもこの場を立ち去ってもらうのが最善の策だったため、鳥居は長谷川に援護射撃の如く矢継ぎ早に言葉を投げた。

「詳しいならお前が行ってやれよ。ちえりを待ってるのは俺だけだろ」

「……どったの鳥居っち?」

「…………」

 瑞貴の言葉に返り討ちを食らって穴だらけになってしまった鳥居。
 壁に手をついて打ちひしがれている彼に状況を理解していない長谷川が顔を覗き込んでくる。

「んでもまぁ……ちょっと桜田っちと話したいしさ。やっぱ桜田っち送ってくれない? 途中でちえりっちと会うかもだしさ」

「…………」

 鳥居は口を挟まなくともよかったのかもしれない。
 一言もしゃべらない三浦と、まだほろ酔い気分が抜けていない長谷川、そしてだんまりの瑞貴の三人を玄関まで見送った鳥居はドアが閉まると盛大なため息をついてポツリと呟いた。


「飯が不味く感じるやつらとは二度と食いたくねぇ」

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