青いチェリーは熟れることを知らない①
立ち込める暗雲
「俺しょうが焼きにするけど、ちえりは何食う?」
昼休みを迎えた一行は、社員食堂の列へ並びながら目的のランチへ目星をつける。
意見を求められたちえりは瑞貴の後ろをついて歩きながら、おしゃれなカフェさながらのこのフロアと美味しそうなメニューに目移りしてしまい、自分で決めたら時間がかかりそうだったため幼馴染の彼の意見へ同調することにした。
「あ……、じゃあ私も同じのでっ!」
「おっけー!」
瑞貴は自然な動作でふたり分の食券を購入し、レールの上の野菜や味噌汁、小鉢を自分とちえりのトレイの上へと載せていく。
「センパイすみません、お給料が入ったらちゃんと返しますね」
恥ずかしながら貯金など無に等しいちえりは、衣食住に関わるすべてを瑞貴に世話してもらっており、ランチのリクエストなどできる立場ではなかった。
「ちえり、俺たちの間で遠慮はなしだ。それにお前は飯作ってくれてるんだから、他のことは俺に任せとけって」
「で、でもっ……それだけじゃあ……センパイに迷惑がっ……」
食事を作ると言っても、瑞貴がキッチンに立っていることもある。これだけではどう考えても割に合わない。あまりに申し訳なくて、縋るように彼のあとを追いかけた。
「迷惑だなんて思ってたら一緒に棲もうなんて言ってないよ。いいからちえりは黙って俺に甘えてろ」
「……センパイ……」
甘い殺し文句を言われてしまっては返す言葉が見つからない。
さらには微笑みながらコツンと額を小突かれ、触れた部分に熱が帯びてくる。
「あ、でも買い物は俺も一緒に行きたいな」
「一緒に歩けるなんて嬉しいですっ!! 大歓迎です!!」
(やっぱりセンパイは優しいな……、それに一緒に買い物だなんてデートみたい……)
ちえりにとって瑞貴が隣りにいること事態がご褒美のようなものだが、どう考えても瑞貴の負担が大きすぎる。何かほかにできることはないかと考えていると――……
「って、あ……今日茶碗買に行こうって言ってたのにごめんな?」
「……いいえっ……! 私の歓迎会まで開いていただいちゃって、逆に申し訳ないなってくらいで……お茶碗、いつでも大丈夫ですから!」
眉を下げる瑞貴へ感謝の気持ちを伝えながら笑顔で答える。
「このあたりの店はさ、結構遅くまでやってるから会社帰りの時間があるとき寄ろうな」
「はいっ! 私、お洗濯や掃除も頑張りますから、センパイも私を頼ってくださいね!」
さっそく自分にもできることを思いついたちえりは、任せろ! とばかりに自身の胸元をトンと叩く。しかし、その勢い余ってレール上を滑っていたトレイに肘をぶつけてしまった。
「ありがとな。ってほら、味噌汁こぼれたぞ!」
おしぼりを広げて綺麗に拭ってくれる瑞貴。
「ご、ごめんなさい……っ……」
小鉢やお椀を持ち上げて水気を拭き取ってもらう。まるで瑞貴の家にいるような自然な動作に思わず甘えてしまった。するとそんなふたりの様子を目の当たりにした吉川と佐藤がコソコソと耳打ちしている。
「なんか新婚夫婦みたいな会話してますよね……」
「んー、知り合いって言ってたけど従妹とかじゃないか?」
「えー!従妹ってあそこまで仲良しです!?」
「あーごめん違うかも……」
昼休みを迎えた一行は、社員食堂の列へ並びながら目的のランチへ目星をつける。
意見を求められたちえりは瑞貴の後ろをついて歩きながら、おしゃれなカフェさながらのこのフロアと美味しそうなメニューに目移りしてしまい、自分で決めたら時間がかかりそうだったため幼馴染の彼の意見へ同調することにした。
「あ……、じゃあ私も同じのでっ!」
「おっけー!」
瑞貴は自然な動作でふたり分の食券を購入し、レールの上の野菜や味噌汁、小鉢を自分とちえりのトレイの上へと載せていく。
「センパイすみません、お給料が入ったらちゃんと返しますね」
恥ずかしながら貯金など無に等しいちえりは、衣食住に関わるすべてを瑞貴に世話してもらっており、ランチのリクエストなどできる立場ではなかった。
「ちえり、俺たちの間で遠慮はなしだ。それにお前は飯作ってくれてるんだから、他のことは俺に任せとけって」
「で、でもっ……それだけじゃあ……センパイに迷惑がっ……」
食事を作ると言っても、瑞貴がキッチンに立っていることもある。これだけではどう考えても割に合わない。あまりに申し訳なくて、縋るように彼のあとを追いかけた。
「迷惑だなんて思ってたら一緒に棲もうなんて言ってないよ。いいからちえりは黙って俺に甘えてろ」
「……センパイ……」
甘い殺し文句を言われてしまっては返す言葉が見つからない。
さらには微笑みながらコツンと額を小突かれ、触れた部分に熱が帯びてくる。
「あ、でも買い物は俺も一緒に行きたいな」
「一緒に歩けるなんて嬉しいですっ!! 大歓迎です!!」
(やっぱりセンパイは優しいな……、それに一緒に買い物だなんてデートみたい……)
ちえりにとって瑞貴が隣りにいること事態がご褒美のようなものだが、どう考えても瑞貴の負担が大きすぎる。何かほかにできることはないかと考えていると――……
「って、あ……今日茶碗買に行こうって言ってたのにごめんな?」
「……いいえっ……! 私の歓迎会まで開いていただいちゃって、逆に申し訳ないなってくらいで……お茶碗、いつでも大丈夫ですから!」
眉を下げる瑞貴へ感謝の気持ちを伝えながら笑顔で答える。
「このあたりの店はさ、結構遅くまでやってるから会社帰りの時間があるとき寄ろうな」
「はいっ! 私、お洗濯や掃除も頑張りますから、センパイも私を頼ってくださいね!」
さっそく自分にもできることを思いついたちえりは、任せろ! とばかりに自身の胸元をトンと叩く。しかし、その勢い余ってレール上を滑っていたトレイに肘をぶつけてしまった。
「ありがとな。ってほら、味噌汁こぼれたぞ!」
おしぼりを広げて綺麗に拭ってくれる瑞貴。
「ご、ごめんなさい……っ……」
小鉢やお椀を持ち上げて水気を拭き取ってもらう。まるで瑞貴の家にいるような自然な動作に思わず甘えてしまった。するとそんなふたりの様子を目の当たりにした吉川と佐藤がコソコソと耳打ちしている。
「なんか新婚夫婦みたいな会話してますよね……」
「んー、知り合いって言ってたけど従妹とかじゃないか?」
「えー!従妹ってあそこまで仲良しです!?」
「あーごめん違うかも……」