青いチェリーは熟れることを知らない①
 そんなこんなで何故かちえりも参加することになってしまった瑞貴の同期メンバーの飲み会。さらによっぽど気に入られているのか、そこには鳥頭の姿もあった。

(戸田さんってあの人か……)

 人の好さそうなやや太めの男性が瑞貴と肩を並べながら陽気にジョッキを傾けていた。
 おそらく同じくらいの年齢と思われるが、やはり瑞貴は若く美しく見える。隣りの席の女客がしきりに瑞貴の方を見ては騒いでおり、いつ声を掛けようかとタイミングを見計らっているようにみえてヤキモキする。

(いざとなったら私が間に入ってっっ……!!)

 同期らしい人物はおよそ十四、五人。流れで参加させられたちえりは長テーブルの端へ座り、不本意にも鳥頭と隣同士になってしまった。

「……もしかしてあんたもお酒だめなタイプ?」

 相変わらずグレープフルーツジュースへ口をつける鳥頭を見てちえりがボソリと呟いた。

「一緒にすんな。俺は待ってる女が酒がだめなだけだ」

「へぇ……もの好きな人もいるのねぇ」

 "女"への話題に興味を示さないちえりは頼んでいた"もつ鍋"を仕方なく取り分けながら鳥頭にも渡す。

「あぁ、俺に従順で他のやつには#靡__なび__#かないからな」

「……従順って……他に言い方ないの……?」

「ほらほら~! ふたりともちゃんと飲んでるかい?」

 顔を赤くした長谷川がちえりと鳥居の間に割り込んできた。前回もこうして割り込まれた鳥居が激しく嫌そうな顔で彼女を迎える。

「……長谷川さん狭いし邪魔なんですけど」

「あ~! なに!? 若葉っちの隣がいいって? ごめんごめん!!」

「いえいえ! 是非ここで落ち着いて頂いて!!」

「優しいねぇ若葉っちは~!!」

 ガバッと抱き着かれ、長谷川の丸い金のイヤリングが頬を撫でるとちえりは思った。
 彼女の馴染みやすさはこうした他人との距離を素直に埋められるところなのかもしれない、と。

(私なんて三浦さんに苦手意識持ってるし……それが伝わっちゃってたのかもしれないな……)

 長谷川の裏のない行動に自分の行動を恥じていると、敏感になっていた三浦に対する苦手意識がどことなく丸くなった気がする。
 そして自分が会社で穏やかに過ごすことが瑞貴の負担を減らすことにも繋がるため、できれば皆と仲良く過ごしたい。こうして、今一度態度を改めようとちえりだったが――……

 午後二十一時半を回ろう頃にはポツリポツリと帰る人が見受けられた。

(……何時まで続くんだろう……)

 ちらりと瑞貴を見ると既にアルコールはストップしたようで、烏龍茶を飲み続けている。
 時折ソワソワする彼を見て目が合わないかと注視してみるが、ふたつ隣りに座っている三浦が瑞貴へ何やら耳打ちしてみたりと、蚊帳の外であるちえりの時間はもどかしいまま刻々と過ぎていく。

< 35 / 110 >

この作品をシェア

pagetop