青いチェリーは熟れることを知らない①
女の幸せ?とチェリー
(今日はハンバーグに決めたっ!!
肉! 恐れるべからずっっっ!!)
合挽き肉と玉ねぎ、パン粉や適当な野菜を購入し帰宅したちえり。
洗濯機をまわしながら先に風呂洗いを済ませ、それから米を研ぎ、ハンバーグの仕込みを開始する。
「料理本のひとつでも欲しいけど、いまはネットで見れるから助かるっ! えっとまずは……」
涙をぼろぼろ流しながら玉ねぎをみじん切りにし、キツネ色になるまで炒めてからボールへ移す。
やがて湯気とともに立ち上がる香ばしいかおり。それは腹の虫を覚醒させるような美臭を放ち、艶やかなそれはちえりを誘っているように見えた。
「んーいい匂いっ! 玉ねぎおいしそ~!」
昼食を満足にとれなかった彼女は早くもつまみ食いしそうな勢いで炒めた玉ねぎに熱い視線を注ぐ。
「ぶ、分量通りじゃなくなるのは危険だっ!!」
失敗を恐れたちえりは気を取り直し、そこへひき肉と卵、パン粉や牛乳を投入する。
レシピ主のワンポイントアドバイスも見落とさぬよう味を整えてから丁寧に愛情を込めてひき肉を捏ねる。手作りハンバークはあまり作ったことがなく、ひんやり&ねっとりとした感触はなかなか慣れるものではないが、瑞貴の笑顔が待っていると思えばいつまででも捏ねていられる気がする。
成形を終えたちえりは次に、"人参のグラッセ"を作ることにした。輪切りにした人参へ、バターやはちみつを加えながら甘く煮る。
「疲労回復にもイイらしいし、付け合せには最高だべっ!」
家では絶対にやらないようなおしゃれな飾り付けにも余念がない。合間に海藻サラダを完成させ、冷蔵庫で冷やしておく。そして今日はスープも手抜きしないようミネストローネを作ろうと模索していた。
「今まで思ったことないけど……料理って楽しいな」
実家の両親が聞いたら仰天しそうな発言も、やはり瑞貴の存在が大きいことがわかる。
(もしかして……こ、これが女の幸せってやつだべかっ!?)
もっともらしく胸の中で叫び、年頃の女性の何かを掴みかけていると――
――ピーピーピー
「……っ!?」
洗濯機が何とも間の良い"完了のブザー"を奏でる。
「女の幸せ感じる前にまずは洗濯物が先だ!」
それからも手際よく炊事や家事をこなし、残すは瑞貴を待つばかりと食事の用意を整えた。
――そしてようやく瑞貴が帰宅したのは、午後二十時半を少し過ぎた頃だった。
やや遅い夕食後、瑞貴が風呂に入っている間に綺麗に完食された皿を洗うちえり。喜んで食べてくれた彼の顔を思い出すとニヤニヤが止まらない。
「明日は土曜日だし、三食分かぁ~何作るかな~~♪」
「あ、明日さ……」
「……は、はいっ!?」
ドッキーンとして振り返ると、風呂上りの瑞貴がそこに立っていた。
「ごめん、驚かせた?」
「ちょ、ちょっとだけっっ! で、で、で!? 明日どうかしましたっ!?」
「ん……、風呂入ってる間に着信あって掛け直したら、明日会社に来てほしいって」
「土曜日なの、に……?」
「まぁ、たまにあるっちゃあるんだけどな」
「でもセンパイ、ちゃんと休まないと……」
「このくらい大丈夫だって。……それよりさ、どこも連れていけなくてごめんな?」
「え?」
思いも寄らぬ彼の言葉に目を丸くしてしまう。
「飯くらいしか出かけてないだろ、俺たち」
「い、いいえっ! いいんです!! 私基本インドア派なのでっっ!」
「でも今日、吉川に映画誘われてたとき、行きたそうな顔してたろ?」
(しまったっ! 見られてたっっ!!)
「あ、あ、あれはっ! 大好きな海外ドラマ映画化しないかなぁっ!? とか考えてただけで……っ!!」
大量の汗が毛穴という穴から次々に噴き出してくる。
しかし、咄嗟についたこの発言もあながちウソではないため、嘘つきにはならないはずだ。
「……そっか? じゃあ日曜に借りに行こうな」
「は、はいっ!」
ちえりが瞳を輝かせたのを満足そうに眺める瑞貴。
彼の優しい手がそっとちえりの髪を撫で、"じゃあ先に寝るわ"と言葉を残すと、キッチンから出ていく。
「…………」
(や、やったーーーっ!!
レンタルショップで瑞貴センパイとデートだぁああっっ!!)
肉! 恐れるべからずっっっ!!)
合挽き肉と玉ねぎ、パン粉や適当な野菜を購入し帰宅したちえり。
洗濯機をまわしながら先に風呂洗いを済ませ、それから米を研ぎ、ハンバーグの仕込みを開始する。
「料理本のひとつでも欲しいけど、いまはネットで見れるから助かるっ! えっとまずは……」
涙をぼろぼろ流しながら玉ねぎをみじん切りにし、キツネ色になるまで炒めてからボールへ移す。
やがて湯気とともに立ち上がる香ばしいかおり。それは腹の虫を覚醒させるような美臭を放ち、艶やかなそれはちえりを誘っているように見えた。
「んーいい匂いっ! 玉ねぎおいしそ~!」
昼食を満足にとれなかった彼女は早くもつまみ食いしそうな勢いで炒めた玉ねぎに熱い視線を注ぐ。
「ぶ、分量通りじゃなくなるのは危険だっ!!」
失敗を恐れたちえりは気を取り直し、そこへひき肉と卵、パン粉や牛乳を投入する。
レシピ主のワンポイントアドバイスも見落とさぬよう味を整えてから丁寧に愛情を込めてひき肉を捏ねる。手作りハンバークはあまり作ったことがなく、ひんやり&ねっとりとした感触はなかなか慣れるものではないが、瑞貴の笑顔が待っていると思えばいつまででも捏ねていられる気がする。
成形を終えたちえりは次に、"人参のグラッセ"を作ることにした。輪切りにした人参へ、バターやはちみつを加えながら甘く煮る。
「疲労回復にもイイらしいし、付け合せには最高だべっ!」
家では絶対にやらないようなおしゃれな飾り付けにも余念がない。合間に海藻サラダを完成させ、冷蔵庫で冷やしておく。そして今日はスープも手抜きしないようミネストローネを作ろうと模索していた。
「今まで思ったことないけど……料理って楽しいな」
実家の両親が聞いたら仰天しそうな発言も、やはり瑞貴の存在が大きいことがわかる。
(もしかして……こ、これが女の幸せってやつだべかっ!?)
もっともらしく胸の中で叫び、年頃の女性の何かを掴みかけていると――
――ピーピーピー
「……っ!?」
洗濯機が何とも間の良い"完了のブザー"を奏でる。
「女の幸せ感じる前にまずは洗濯物が先だ!」
それからも手際よく炊事や家事をこなし、残すは瑞貴を待つばかりと食事の用意を整えた。
――そしてようやく瑞貴が帰宅したのは、午後二十時半を少し過ぎた頃だった。
やや遅い夕食後、瑞貴が風呂に入っている間に綺麗に完食された皿を洗うちえり。喜んで食べてくれた彼の顔を思い出すとニヤニヤが止まらない。
「明日は土曜日だし、三食分かぁ~何作るかな~~♪」
「あ、明日さ……」
「……は、はいっ!?」
ドッキーンとして振り返ると、風呂上りの瑞貴がそこに立っていた。
「ごめん、驚かせた?」
「ちょ、ちょっとだけっっ! で、で、で!? 明日どうかしましたっ!?」
「ん……、風呂入ってる間に着信あって掛け直したら、明日会社に来てほしいって」
「土曜日なの、に……?」
「まぁ、たまにあるっちゃあるんだけどな」
「でもセンパイ、ちゃんと休まないと……」
「このくらい大丈夫だって。……それよりさ、どこも連れていけなくてごめんな?」
「え?」
思いも寄らぬ彼の言葉に目を丸くしてしまう。
「飯くらいしか出かけてないだろ、俺たち」
「い、いいえっ! いいんです!! 私基本インドア派なのでっっ!」
「でも今日、吉川に映画誘われてたとき、行きたそうな顔してたろ?」
(しまったっ! 見られてたっっ!!)
「あ、あ、あれはっ! 大好きな海外ドラマ映画化しないかなぁっ!? とか考えてただけで……っ!!」
大量の汗が毛穴という穴から次々に噴き出してくる。
しかし、咄嗟についたこの発言もあながちウソではないため、嘘つきにはならないはずだ。
「……そっか? じゃあ日曜に借りに行こうな」
「は、はいっ!」
ちえりが瞳を輝かせたのを満足そうに眺める瑞貴。
彼の優しい手がそっとちえりの髪を撫で、"じゃあ先に寝るわ"と言葉を残すと、キッチンから出ていく。
「…………」
(や、やったーーーっ!!
レンタルショップで瑞貴センパイとデートだぁああっっ!!)