青いチェリーは熟れることを知らない①
「……え?」
わさわさと触る手を止めるとワンコ"チェリー"が、"もっとやって!"とばかりに催促の甘噛みを開始する。ちえりは"よしよし"と目を細めながら顎周りを撫でた。
「名前と年齢、性別は?」
なぜか鳥頭から質問を受けると、まるで怖い狼のおまわりさんから取り調べを受けているような感覚に陥る。
「あ、えっと……タマ、雄で十四歳になるかな? なったかな?」
愛らしいタマの姿をゆっくり思い浮かべながら、その成長ぶりを記憶と共にさかのぼる。
「……猫みたいな名前だな」
「そう言われるけど……タマを見つけた場所が近くの球場だったから。瑞貴センパイが付けてくれた名前だし、私もタマ自身も気に入ってるの」
実際、初めて彼をそう呼んだとき嬉しそうに笑った気がしたのだ。子犬らしい高い声をあげながら取れてしまいそうな程に尾を振って。
「ふーん。で、写真あるんだろ?」
「あるよ、スマホに入ってる」
ごそごそとポケットにしまったスマホを取り出し、アルバム機能を呼び出して一番新しいタマと、子犬だった頃のタマを画面上に映し出した。
雑種に多いかもしれない茶色の愛しい生き物。
十四歳にしてはまだまだ元気で、室内飼いの彼はいつもちえりの傍らに寄り添っていた。休みの日というのも雰囲気でわかるのか、朝早く起こされて散歩をせがまれることも多く、タマだけにボールで遊ぶことも大好きだった。
「これが小さい頃のタマと瑞貴センパイ、でこっちが東京来るちょっと前のタマ」
昔流行ったインスタントカメラで撮影したそれは少し色褪せているような気がするが、半袖のワイシャツを着た端整な顔立ちの瑞貴が子犬を抱いている姿は、どこぞのハーフモデルかと思うほどに美しく輝いている。
「へぇ……って、瑞貴先輩アップにしすぎだろ」
おかしなところを指摘され、頬を真っ赤に染めながら慌てて否定するちえり。
「そ、それは角度! しゃがんでる瑞貴センパイを上から撮ったからこうなっちゃったの!!」
「ふーん……」
まったく信用していない鳥頭はちえりの許可もなくアルバムの写真を指でスライドさせていく。次々に流れるタマの色々な姿。楽しそうな愛犬の笑顔の先には、ちえりがいるであろうことがわかる。そんな愛情の感じられる優しいショットが続き、鳥居の目が細められる中――
「…………」
(なんだこれ……男? 薔薇の何に包まれてんだ?)
「……どうかした?」
急に手の動きを止めた鳥頭に疑問を抱いたちえりがスマホを覗き込む。
「……あっ! ダメっ! それダメェエエッ!!!」
「隠し撮りか?」
「う、うーんっ? どうかな~、そうかな~~~……っ……」
目を泳がせ、冷や汗を滝のように噴き出しながら言葉を濁そうとしているちえりの姿にピンときてしまった。
「瑞貴先輩気の毒だな」
「……っ! センパイには言わないでっっ!!」
告げ口されると思ったのか、とたんに頭を下げ始めたちえり。
コロコロと変わるその表情に自然と笑みがこぼれる。
「はっ! 俺がそんな小者にみえるかっての」
「み、みえ…………」
目を凝らしながら"うーん"と真剣に悩んでいる姿さえ可笑しくてしょうがない。
「おい、ふざけんなっ……」
普段抱いたことのない感情に首を傾げながらも"可笑しいのは俺か?"と心の異変を感じ始めた鳥居だが、それが何なのかを決断するにはもう少しの時間が必要だった――。
わさわさと触る手を止めるとワンコ"チェリー"が、"もっとやって!"とばかりに催促の甘噛みを開始する。ちえりは"よしよし"と目を細めながら顎周りを撫でた。
「名前と年齢、性別は?」
なぜか鳥頭から質問を受けると、まるで怖い狼のおまわりさんから取り調べを受けているような感覚に陥る。
「あ、えっと……タマ、雄で十四歳になるかな? なったかな?」
愛らしいタマの姿をゆっくり思い浮かべながら、その成長ぶりを記憶と共にさかのぼる。
「……猫みたいな名前だな」
「そう言われるけど……タマを見つけた場所が近くの球場だったから。瑞貴センパイが付けてくれた名前だし、私もタマ自身も気に入ってるの」
実際、初めて彼をそう呼んだとき嬉しそうに笑った気がしたのだ。子犬らしい高い声をあげながら取れてしまいそうな程に尾を振って。
「ふーん。で、写真あるんだろ?」
「あるよ、スマホに入ってる」
ごそごそとポケットにしまったスマホを取り出し、アルバム機能を呼び出して一番新しいタマと、子犬だった頃のタマを画面上に映し出した。
雑種に多いかもしれない茶色の愛しい生き物。
十四歳にしてはまだまだ元気で、室内飼いの彼はいつもちえりの傍らに寄り添っていた。休みの日というのも雰囲気でわかるのか、朝早く起こされて散歩をせがまれることも多く、タマだけにボールで遊ぶことも大好きだった。
「これが小さい頃のタマと瑞貴センパイ、でこっちが東京来るちょっと前のタマ」
昔流行ったインスタントカメラで撮影したそれは少し色褪せているような気がするが、半袖のワイシャツを着た端整な顔立ちの瑞貴が子犬を抱いている姿は、どこぞのハーフモデルかと思うほどに美しく輝いている。
「へぇ……って、瑞貴先輩アップにしすぎだろ」
おかしなところを指摘され、頬を真っ赤に染めながら慌てて否定するちえり。
「そ、それは角度! しゃがんでる瑞貴センパイを上から撮ったからこうなっちゃったの!!」
「ふーん……」
まったく信用していない鳥頭はちえりの許可もなくアルバムの写真を指でスライドさせていく。次々に流れるタマの色々な姿。楽しそうな愛犬の笑顔の先には、ちえりがいるであろうことがわかる。そんな愛情の感じられる優しいショットが続き、鳥居の目が細められる中――
「…………」
(なんだこれ……男? 薔薇の何に包まれてんだ?)
「……どうかした?」
急に手の動きを止めた鳥頭に疑問を抱いたちえりがスマホを覗き込む。
「……あっ! ダメっ! それダメェエエッ!!!」
「隠し撮りか?」
「う、うーんっ? どうかな~、そうかな~~~……っ……」
目を泳がせ、冷や汗を滝のように噴き出しながら言葉を濁そうとしているちえりの姿にピンときてしまった。
「瑞貴先輩気の毒だな」
「……っ! センパイには言わないでっっ!!」
告げ口されると思ったのか、とたんに頭を下げ始めたちえり。
コロコロと変わるその表情に自然と笑みがこぼれる。
「はっ! 俺がそんな小者にみえるかっての」
「み、みえ…………」
目を凝らしながら"うーん"と真剣に悩んでいる姿さえ可笑しくてしょうがない。
「おい、ふざけんなっ……」
普段抱いたことのない感情に首を傾げながらも"可笑しいのは俺か?"と心の異変を感じ始めた鳥居だが、それが何なのかを決断するにはもう少しの時間が必要だった――。