青いチェリーは熟れることを知らない①
「……う、うん……?」

(秘密……?)

「罪悪感も通り越してドキドキすんだろ?」

 やや甘味の増した瞳と言葉。しかし――

(ドキドキ…………?)

「……別に?」

 さらりと答えたちえりに鳥頭の頭と肩が下がる。
 やがて"参ったな"とばかりに口角を上げて笑った彼は少年のようにあどけない表情を見せた。

「やっぱ変なオンナだなお前」

「あ、うん……よく言われる」

(今の……ワンコ"チェリー"に見せた笑顔と似てる……)

「またな」

「う、うん……! "チェリー"もまたねっ!」

 パタンと扉が閉まり、彼女の姿が見えなくなると"クゥーン……"と寂しそうな声をあげた"チェリー"。

「……結構いい時間だったと思わないか? チェリー……」

 その言葉がどちらのチェリーに向けられたものかはわからない。
 しかし人間のチェリーがいなくなったことで、少なくともここにいる一人と一匹の心に寂しさを落としたことはいうまでもなかった――。
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