青いチェリーは熟れることを知らない①
 浴槽に浸かりながらぼんやり試供品の裏面を見ていると、思わぬ発見に目を丸くする。

「このサンプル……全部うちの会社の製品だ……」

 正直大企業すぎてどこまで手を伸ばしているかわからない。
 気づけばCMは毎日やってるし、人気女優、俳優の出演するドラマのスポンサーにもなっているのは有名な話だ。

「鳥頭ってば開発部門に知り合いでもいるのかな……?」

 メイク落としを使ってみた肌は心なしか喜んでいる気もする。
 ちえりはしっとりと潤った肌を指先に感じながら、製品名を頭に叩き込んだ。

「ポイント狙いならあのドラッグストアッッ! うん! 数日使って調子よかったら買に行くべ!」

 しっかり全身を磨いて、貰った化粧水や乳液でずぶ濡れになるほど顔や体に塗りまくる。それらが肌に馴染んだところで彼のシャツとスウェットのパンツを身に纏ったちえりはパタパタとリビングめがけて駆けて行く。

(あいつホントにおしゃれだな……)

 あまりきつい匂いを好まないちえりはファミリー向けのボディソープを愛用している。
 そして聞けば瑞貴もなにかこだわりがあるというわけではなく、実家で使っていたものと同じものを継続して使用していただけとのことで、ちえりに合わせてくれたのである。

「ガラスボトルに入ったボディソープって初めて見たかも。匂いもすごく柔らかいし、綺麗な女の人の香りって感じ……」

 リビングに続くドアを開けると、料理の盛られた皿を運ぶ鳥居の姿が視界にうつる。

「ん、風呂あがったか。……やっぱ裾長いな」

 それ以上に何か言いたげな視線がちえりの心の突き刺さる。

「あ、足短いとか言いたいんでしょ……っ! いっとくけどあんたみたいに”イマドキの子”じゃないんだから厳しい目で見ないでよ!?」

「まぁ……俺の足が長いのは血のせいだから気にスンナ」

「……へ?」

「わかったらさっさと座れ。今日は”若葉ちえりの冷しゃぶ”だ」

「……なにそれ……そんなの聞いたことないんだけど……」

(……ったく……これだからイケメンはっっ! 顔がよければ話が滑っても許されると思って……っ!!)

「豚の冷しゃぶな」

「…………」

「美味いし疲労回復効果あるだろ?」

「あ、はい…………」

「それに結構なキレイ好きらしいぜ」

「……そうなんだ……」

「心と体は図太くても肌はデリケートなんだからちゃんと手入れしろよ?」

「……ね、ねぇ……どこから私のはなしか聞いてもいい?」

「あ?」



「全部」


< 82 / 110 >

この作品をシェア

pagetop