青いチェリーは熟れることを知らない①
瑞貴のいない夜
ちえりは鳥居が淹れてくれた温かな緑茶を啜りながら、膝の上でくつろぐわんこチェリーを優しく愛でる。
「俺そろそろ風呂入るけど、眠いなら……」
「ううんっ、じゃあ私は食事の後片付けでも……」
会話が一区切りしたところで立ち上がった鳥居をみて自然と体が動いた。
「もう終わった。お前は慣れない残業したんだから疲れてるだろ」
(……ガーン! はや……っ!!)
端々に嫌味が飛び出すが、良質な食事と寝床を提供してくれた彼に噛み付くわけにはいかない。
「残業っていっても私なんか大したことしてないし!! ま、まだ大丈夫! ほら、こんな時間じゃ欠伸もでないって!!」
(まさか家主より先に寝るわけにはっっ!)
という思いも込めて、BGMっぽく流れていた二十一時のドラマを指差すと――
『あぁ~ん、あふ~んん』
この時間に似つかわしくない大人な場面が画面いっぱいにドーンと映し出されていた。
「……ッぶーーッ!!」
ギョッとしすぎて、年齢性別不明な声をあげてしまったちえり。
人は驚くと地が出てしまうのは致し方ないらしい。
「お前に関してはもう滅多なことじゃもう驚かねぇと思ったけど……ははっ! この時間にこのテンションじゃ瑞貴先輩も大変だな!」
わざとらしくため息をつきながらも楽しそうに笑う鳥居につられて笑みがこぼれる。
「わ、私だっていつもこんなんじゃないんだからっ! それにテンションあがるのって楽しいからなんだし、悪いことじゃないでしょ!?」
「……あぁ、そうだな。悪くない」
一瞬見開かれた瞳は柔らかい眼差しとなってゆっくり細められた。
そんな鳥居の様子にも気づかないちえりは恥ずかしさを紛らわすようにチャンネルを切り替えようとリモコンへ手を伸ばしている。
「へへっ、……でもこんな時間にあんなドラマって珍し……あれ?」
幾度切り替えてもちえりの母親が好きな”青春カムバック系”のドラマは見当たらず、代わりに映し出されたのは自分の好きな脱力系お笑い番組と、父親の好きなニュースが多いことに気づく。
「何時だと思ってんだ?」
「……? せいぜい二十二時くらいだと……」
「もう二十三時過ぎだぜ」
「……え゙っ!? なんか、色々とごめん……」
「どう致しまして。俺もテンションあがったし。まあまあつまらなくもなかったぜ」
「……へ? なに?」
最後の方をうまく聞き取れなかったちえりは聞き返したが、それについての返事はなく――
「明日のためにお前はもう寝とけ。瑞貴先輩に朝イチで連絡いれるんだろ?」
「あ……うん……」
今夜はもう瑞貴も疲れているだろうからと、先ほど短いメールを一通飛ばしたのだが返事はない。
しかし、電源が切れている間に彼からの着信とメールが何度もあったことを知ったちえりは申し訳なさと、再び嘘をついてしまったことの罪悪感から視線が下がる。
(シティホテルに泊まりますって……嘘ついちゃった。安心させるための嘘ならお天道様も許してくれる、……よね?)
許すもなにも、瑞貴に嘘を通し続けるのなら墓場まで持っていかなくてはならないことに変わりない。そうでなければ嘘をつく意味がないからだ。
「なに感傷に浸ってんだよ。あと寝るなら――……」
「俺そろそろ風呂入るけど、眠いなら……」
「ううんっ、じゃあ私は食事の後片付けでも……」
会話が一区切りしたところで立ち上がった鳥居をみて自然と体が動いた。
「もう終わった。お前は慣れない残業したんだから疲れてるだろ」
(……ガーン! はや……っ!!)
端々に嫌味が飛び出すが、良質な食事と寝床を提供してくれた彼に噛み付くわけにはいかない。
「残業っていっても私なんか大したことしてないし!! ま、まだ大丈夫! ほら、こんな時間じゃ欠伸もでないって!!」
(まさか家主より先に寝るわけにはっっ!)
という思いも込めて、BGMっぽく流れていた二十一時のドラマを指差すと――
『あぁ~ん、あふ~んん』
この時間に似つかわしくない大人な場面が画面いっぱいにドーンと映し出されていた。
「……ッぶーーッ!!」
ギョッとしすぎて、年齢性別不明な声をあげてしまったちえり。
人は驚くと地が出てしまうのは致し方ないらしい。
「お前に関してはもう滅多なことじゃもう驚かねぇと思ったけど……ははっ! この時間にこのテンションじゃ瑞貴先輩も大変だな!」
わざとらしくため息をつきながらも楽しそうに笑う鳥居につられて笑みがこぼれる。
「わ、私だっていつもこんなんじゃないんだからっ! それにテンションあがるのって楽しいからなんだし、悪いことじゃないでしょ!?」
「……あぁ、そうだな。悪くない」
一瞬見開かれた瞳は柔らかい眼差しとなってゆっくり細められた。
そんな鳥居の様子にも気づかないちえりは恥ずかしさを紛らわすようにチャンネルを切り替えようとリモコンへ手を伸ばしている。
「へへっ、……でもこんな時間にあんなドラマって珍し……あれ?」
幾度切り替えてもちえりの母親が好きな”青春カムバック系”のドラマは見当たらず、代わりに映し出されたのは自分の好きな脱力系お笑い番組と、父親の好きなニュースが多いことに気づく。
「何時だと思ってんだ?」
「……? せいぜい二十二時くらいだと……」
「もう二十三時過ぎだぜ」
「……え゙っ!? なんか、色々とごめん……」
「どう致しまして。俺もテンションあがったし。まあまあつまらなくもなかったぜ」
「……へ? なに?」
最後の方をうまく聞き取れなかったちえりは聞き返したが、それについての返事はなく――
「明日のためにお前はもう寝とけ。瑞貴先輩に朝イチで連絡いれるんだろ?」
「あ……うん……」
今夜はもう瑞貴も疲れているだろうからと、先ほど短いメールを一通飛ばしたのだが返事はない。
しかし、電源が切れている間に彼からの着信とメールが何度もあったことを知ったちえりは申し訳なさと、再び嘘をついてしまったことの罪悪感から視線が下がる。
(シティホテルに泊まりますって……嘘ついちゃった。安心させるための嘘ならお天道様も許してくれる、……よね?)
許すもなにも、瑞貴に嘘を通し続けるのなら墓場まで持っていかなくてはならないことに変わりない。そうでなければ嘘をつく意味がないからだ。
「なに感傷に浸ってんだよ。あと寝るなら――……」