青いチェリーは熟れることを知らない①
 それからは一部の社員を抜かして就業の時間を迎え、出張あがりの瑞貴は尚更、定時に退社することができた。

 そのため自然と一緒に帰ることになったわけだが、そわそわと周囲を気にするちえりに比べ、平然と歩き続ける瑞貴。疲れているはずの彼の足取りは軽く、定時で退社できたことが良かったのだと心からそう思う。

「荷物届くの明日だよな?」

 どこか楽しげな笑みを浮かべて問いかけてくる瑞貴を崇めるように見とれてしまっていたせいで返事が遅れた。

「え、あ……っはい! 間違いないと思います!」

「じゃあやっぱり買い物は今日のほうが良さそうだな。俺もいるし」

 "荷物持ち"と、力こぶを作ってみせる彼に興奮して鼻息が荒くなる。

「す、素敵です凄くっっ!! 買い物袋からネギが出てたらもっと!!!」

「ははっ! なんでネギか謎だけど……そういえば俺、鍋が食いたい気分かも」

「そう、鍋! 私もそう思ってましたっ!」

(考えが似てるって最高!
相性バッチリじゃない!?)

 はしゃぐちえりにクスリと笑いながら"んー"と両手を上げて伸びをする瑞貴。

(……学生時代もこうやって隣、歩いていたかったな……)

 寂しさ半分、こうして隣に居られる今の幸せ半分。
 空白の数年を追いかけるように、あどけないその仕草を真似てみると……ふいに胸ポケットがモソモソと動いた。

「……?」

 見た目にはわからないほどに変化はないが、意味ありげに優しくこちらを見つめている瑞貴の表情から自然とちえりの手がそこを探る。
 疑問に思いながら数本の指を挿しこむと、すぐに硬いプラスチック状のものの存在を確認することができた。

「これ……」

 目の前に取り出したものを見つめていると、瑞貴が頷く。

「これからはチェリーが持ってて? 遅くなるとしたら俺の方だし、もうアイツとは……なにも起きて欲しくないからさ」


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