【短編】ホワイトデーには花束を、オレンジデーには甘いキスを(三人称)

帰り道、佳織はデパートに寄った。どうしようもない片想いに、告白すら許されない状況の恋に、自分の気持ちを持て余していた。自分へのご褒美になにか買おうかと思った。テンションを上げるもの……やっぱりお菓子かな、と貧困な発想に呆れつつも地下へのエスカレーターに足を乗せた。この地下階にはスーパーのほかに生ケーキを販売するパティスリーや焼き菓子をメインに販売するコンフェクショナリが軒を連ねている。夕刻のにぎやかな雰囲気。夕食の材料を買い求める女性客の中にスーツ姿の男性たちが入り混じる。それぞれに白やピンクの紙袋を持ち、うろうろしている。ホワイトデーのお菓子を買い求めてるのかとすぐに気づいた。ピンクや白のハートバルーンを掲げ、どこのかしこもホワイトデーの宣伝をしていた。

ふと脳内をよぎるのは真佐課長の顔。
(真佐課長、萌絵にお返しするのかな)
返事は期待しないでほしいと言った課長だけど、お返しは渡すだろう。もらったまま何も返さないわけにはいかない。仮に付き合えなかったとしても彼からお菓子をもらえるなら、それも思い出になる。萌絵がうらやましかった。玉砕でも告白出来たら……。佳織はため息をついた。
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