【短編】ホワイトデーには花束を、オレンジデーには甘いキスを(三人称)
ランニングマシンは窓を向いていて、佳織からは課長の背中しか見えない。軽快なストライド、それでいて力強い足。筋肉のついた太ももとふくらはぎ。薄手のTシャツはところどころ汗で濡れていて、彼の肌にまとわりついていた。筋肉のある背中。袖から出た腕もすごく逞しい。マッチョが好きなわけじゃないけど、あんな体に抱きしめられたら、守られている感じがいっぱいだろうな、と想像してしまう。
(彼女になる女の子がうらやましいな)
あの逞しい腕に守られる女の子って誰だろう。もしかしたら萌絵がその腕の中に収まるのかもしれない。佳織はため息をついた。

しばらくして戻ってきた課長は私の隣に座った。

「どうした?  まだダメか」
「だめって?」
「汗で流せなかったか、お前の悩み」
「いえ」
「嘘つくな。ため息ついてただろう?」
「見てたんですか?」
「ああ。窓に映ってたからな。で、何を悩んでいるんだ?」
「中身は言えませんけど、自分が思ったより重症みたいで」
「じゃあ、もう一汗流そうか」

課長は私の手を取り、一緒に立ち上がらせた。

「さあ、走ろうか」
「いえ、もう、ムリです」
「まだまだ。さあ」

にっこりと、でも少し意地悪に笑う課長に乗せられて佳織はランニングマシンの上に立った。

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