【短編】ホワイトデーには花束を、オレンジデーには甘いキスを(三人称)

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隣り合ったランニングマシンで汗を流す。佳織の息が上がってどうにも辛くて立ち止まると、課長は手をはたいて佳織を鼓舞した。解放されたのは30分も後だ。足元もおぼつかない状態で更衣室に向かい、シャワーを浴び、着替えを済ませるころには早くも筋肉痛が佳織の全身を襲った。ヘロヘロになって受付ロビーに行くと、再びスーツに身を包んだ課長がいた。あやつり人形のようにぎこちない歩き方をする佳織を見て、真佐課長はクスリと笑う。

「わ、笑わないでください」
「飯、いかないか? 付き合ったお礼におごるから」
「でも」

ぐううう。佳織のおなかが大きな音を出して、それを聞いた課長は佳織のカバンを奪い取った。そしておまけに……課長は佳織の右手を握り、いくぞ、と力強く佳織の手を引いた。課長の大きな手は暖かく、強く握られているにもかかわらず、どこか優しい。それは、まともに歩けない私を気遣ってのこと、佳織はそう自分に言い聞かせた。課長の大きな手に守られるように握られ、勘違いしてはいけない、と何度も言い聞かせる。

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