ミスティ・ミューズはモーツァルトがお好き

第1楽章

人々が寝静まった頃、突如としてその静寂を打ち破る様に「何か」が現れた。「何か」は漆黒の翼を持つ悪魔の様な姿で、火を吹く山を作り出していく。その場に居合わせた人々は驚き戸惑い、逃げ惑う。

その中に、何事にも動じず「何か」を見詰める少女の姿があった。

「ミューズよ、私に力を貸して！ミステリオーソ・デビュタント！」

少女はそう叫んで、タクトを高く掲げた。刹那、眩い光が辺りを包み込む。光が収まると、少女はマスケラを着け、五線譜と音符が散りばめられた衣装になっていた。

「グルル…。」

グロテスクな唸り声を挙げて、「何か」が近付いてくる。同時に、「何か」は沢山の黒いコートを羽織った人に分裂し、恐ろしげに歌い始める。

「何て悲しい旋律…此れは、モーツァルトのレクイエム？」

少女は少し悲しげな表情を見せたかと思いきや、直ぐに顔付きを変えた。

「レクイエム。其れは死者の魂を慰める為のもの…決して不幸な調べにはさせません！スフォルツァンド・ソナタ！」

少女はタクトを再び掲げると、そう叫んで「何か」を目掛けて攻撃した。不協和音はたちまち消え去り、光のシャワーと共に天に昇っていった。

「ふう、一件落着…って感じかな。」

少女は元の姿に戻ると、何事も無かったかの様に家路に着いた。

彼女こそ、音楽を守る為に音楽の女神「ミューズ」に選ばれし魔法少女「ミスティ・ミューズ」なのだ。