私は醜いアヒルの子
女性が茶色がかった長い髪を振り回して、台所に入ってくる。
入ってくるなり形の良い薄い唇を大きく開く。
「あ、おはよ…」
「早く支度をしなさいよ!毎日遅いのよ!このノロマ!」

女性はヒステリック気味に罵倒しながら大股で近づいてくる。
少女はさっきまでの幸せそうな顔を一変させ、上がった口角を下げて俯く。

━━━━━━━━━━━━━━━あぁ

「はー、あと何回言わせれば気が済むの?」
女性が頭1つ分小さい彼女に冷ややかな目を向ける

さっきの余韻を思い出そうと目を瞑る。

━━━━━━━━━━━━━━━ああ


「ちょっと!聞いてるの!?」
こめかみに青筋を立てて耳元で叫ぶ

煩いなあ、他人事のようにさえ感じる。

━━━━━━━━━━━━━━まだなのか


「下ばっか向いてないで私の目を見なさいよ!」

こんな時、私は酷く醜く見えるのだろうか

━━━━━━━━━━━━━━━まだ生きているのか

ガタンッ

「っ───」

横の髪を上に引っ張られ、強制的に上を向かされる。
いきなりの衝動によって思考がぶつり、と切れた。

目を瞬かせているとさっきよりも強い力で髪を引っ張られた。
暴言を吐いていたとは思えぬ程、美しい顔が目の前に迫りドスをきかせた声で耳元で囁く。

「あんたなんかの分際で私を無視していいとか思うなよ」
悪魔は惑わすため、たいそうな美貌を持っているらしい
そんなことを連想させるようだった。
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