初恋をもう一度。【完】

「もしもし」

『……もしもし、奈々ちゃん?』

6年振りに聞く鈴木くんの声。

声変わりで低くなったはずのその声は、驚くほど自然に耳に馴染んだ。

「うん、奈々です」

答える声が、少し震えてしまった。

嬉しいとかドキドキとかそういう感情を飛び越して、ただ胸がいっぱいで泣きそうになる。

『……奈々ちゃんの声、全然変わってない』

少し笑いながら言った彼の背後から、車が通る音が小さく聞こえた。

「鈴木くん、外にいるの?」

『あのさ、実は』

「ん?」

『今、駅にいるんだけど』

「駅? 出かけるの?」

『俺、栃木駅にいるんだよね』

「栃木駅? …………ええっ!?」

思わず口から漏れる、素っ頓狂な声。

その声を聞いた鈴木くんは楽しげに笑った。

『ね、奈々ちゃんちって、どこら辺?』

「ううん、わたしがすぐ駅まで行くから! 待ってて」

まだ部屋着に着替えてなくてよかった。

コートとマフラーとバッグをまとめて手にすると、わたしは慌てて部屋を飛び出した。
< 103 / 210 >

この作品をシェア

pagetop