初恋をもう一度。【完】

「奈々ちゃん」

少し大きめの声で名前を呼ばれた。

その声を辿ったら、駅の入口に立っている、真っ赤なダウンを着た人物と視線が絡まった。

「…………」

時間が止まるって、こういうことだ。

周りの喧騒なんて何も聞こえなくなった。

わたしの目は、その人しか映さなくなった。

すらっとした身長。

端正な、でもどこかやんちゃな面立ち。

ふわりとした栗色の髪。

昔とはずいぶん変わった気がするのに、ひと目で分かってしまうのはどうしてだろう。

「……鈴木くん」

「うん、俺だよ。奈々ちゃん」

彼はもう一度わたしの名前を呼んで、ふにゃりと笑った。

笑った顔、あの頃と全然変わっていない。

息が止まりそうだった。

涙が勝手にこぼれ落ちた。

ずっと会いたかった、わたしの初恋の人。

会いたくて仕方ない、わたしの大好きな人。

過去も今もごちゃ混ぜだった。

とても言葉にならないその想いは、わたしの体を突き動かす。

「鈴木くん!」

気づいたら彼の元に走っていた。


わたしが胸に飛び込んだのと、鈴木くんがわたしを捕まえたのは、きっと同時だった。

彼はわたしを、強く強く抱き締めた。

「すげー会いたかった」

夜気で冷たくなっていたわたしの耳元を、鈴木くんの声が温かく包み込んだ。
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