初恋をもう一度。【完】

わたし達は恋人じゃない。

2人の間で「好き」という言葉が交わされたことなんて、一度たりともない。

でも──。

わたしをぎゅうっと抱き締めた鈴木くんの全身から、痛いほど気持ちが伝わってきた。

わたし達はまだ、言葉にしていないだけだ。

「……会いに来てくれてありがとう」

「ううん」

鈴木くんはわたしの体をそっと解放した。

「おばあちゃんが亡くなってすごく辛い時に、すぐに会いに来られなくて、ほんとにごめん」

「ううん。ずっと心配してくれて本当にありがとう」

「そんなの当たり前じゃん」

頭上から、鈴木くんの手がふわりと降りてくる。

その手が、わたしの頭を優しく撫でた。

6年前も鈴木くんはこうして頭を撫でてくれた。

切なさ、懐かしさ、喜び、愛おしさ……いろんな感情がやっぱりごちゃ混ぜなまま、ただ、どうにもないほど好きだと思った。

あなたのことが大好きです。

今日こそ、ちゃんと言葉で伝えるから。
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