初恋をもう一度。【完】
「謝らなきゃ、いけないこと?」
わたしは彼の言葉をそのまま返した。
……なんだろう。
わたしに謝らなきゃいけないこと……例えば、実は彼女かいます、とか?
もしそうだとしたらすごく悲しいけれど、わたし達は恋人ではないから謝ることではない。
それに、そんな少し狡い隠し事は、わたしが知る限りの鈴木くんにはなんだか似合わない。
「……ごめんね」
鈴木くんの少し掠れた声が、夜の公園に落ちた。
わたしの脳裏に、ふと6年前の記憶が蘇った。
『ごめんね』
前にもこんな風に、彼はわたしに謝ったのだ。
あれは鈴木くんが転校する少し前、最後に第2音楽室で会った時。
あの時も、何が「ごめん」なのだろうと不思議に思ったのだ。
「鈴木くん、何に謝ってるの?」
わたしが聞き返すと、鈴木くんは少しだけ笑みを浮かべた。
まるで泣き出しそうな、苦しそうな笑顔だった。
「奈々ちゃん……俺、ずっと嘘ついてた」
「……嘘?」
「6年前も、今も。ずっと嘘ついてる」
「……どんな嘘、ついてるの?」
嘘なんて何も思い当たらなくて、けれど鈴木くんのやけに思い詰めた表情と声色に胸がざわついた。