初恋をもう一度。【完】
鈴木くん以外の人が弾いたピアノのCD。
それをわたしにくれる理由はなんだろう。
「あ、鈴木くんのオススメ曲が入ってるの?」
ふと思いついたことを口にしてみたけれど、今このタイミングでそんなCDを渡される意味がわからない。
嘘をついている件と全く繋がらない。
案の定、
「その中に入ってんのは、ベートーベンの『月光』だよ」
鈴木くんは中身をさらりと明かした。
鈴木くん以外の誰かが弾いた、月光のCD。
……誰かが弾いた?
「誰が弾いた月光なの?」
「それは……」
彼は言いかけて、けれど口をつぐみ、首を横に振った。
──その時。
「あれ? ……リト?」
突然、男性の声が公園の静寂を破った。
前を向けば、目の前にわたし達と同い年くらいの男女が立っていた。
二人共、全く知らない顔だ。
「……ああ、シュン」
でも、鈴木くんは低い声でそう返した。