初恋をもう一度。【完】
とりあえず適当に、文房具やら辞書やらをダンボールに詰めた。

それから衣類……そうか、靴も持っていかなきゃいけないのか。

あとは小説とかマンガとか、ゲームも少し持っていこう。

そんな作業を渋々やっていたら、中学2年の頃を思い出した。

栃木の家からこっちに引っ越して来た時のこと。

あの時も荷造りが全然進まなくて、母親に怒られたっけ。

懐かしいな。

俺は栃木市で生まれて、14歳まで栃木市で育った。

建築士の父さんが勤めている建設会社の転勤で、家族みんな東京に引っ越した。

父さんはともかく、音大出身の母さんは、俺が物心ついた時から自宅でピアノ教室を開いていたから、まさか転勤がある家庭だと思わなくて衝撃だった。

転勤の話を父親から聞いた日のことを思い出して、声に出して笑った。

……そういえば、あの日は他にも、びっくりさせられた日だったな。

あの子、元気にしてんのかな。

あの頃を振り返ると、どうしたって『彼女』のことを思い出してしまう。

……思い出してしまう、なんて言い方は変か。

俺は一度だって、忘れたことがない。


田崎奈々ちゃん、俺の初恋の人だ──。

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