初恋をもう一度。【完】
全クラスの合唱が終わって審査をしている間、壇上で吹奏楽部の演奏があった。

クラリネットを持った彼女が舞台に上がって、吹奏楽部だということを知った。

ピアノと吹奏楽じゃ全然違うけど、音楽をやってるという共通点を見つけた気がして嬉しい。

いつもピアノの練習サボってサッカーばっかしてるくせに、急に音楽家気取りだ。

曲目はチャイコフスキーの『悲しい歌』だった。

ピアノ曲で知ってたけど、どちらかというと淡々とした印象のこの曲が、ドラマチックにアレンジされてて、悲しいというより切ない。

演奏中の彼女の姿は、前のクラリネットの人達にかぶってほとんど見えなかった。

『悲しい歌』の旋律のせいで、顔が見えないことがすごく切なかった。

頭の中は彼女のことでいっぱい。

……名前、なんていうんだろう。

声も可愛かったな。

もう一度、今度はちゃんと話してみたいな。

どんな顔で笑うんだろう。

いろいろ知りたくなって、でもこの変な好奇心が何なのかわからなかった。
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