初恋をもう一度。【完】

奈々ちゃんも俺のことがたぶん好きだ。

好きという言葉こそないけど、それは送られてくるメッセージの端々から伝わってきた。

すごく嬉しくて、だけど、俺はまた大きな罪悪感を抱えてしまった。

だって俺はまた、兄貴の名前を騙った偽物だ。

本来の目的を忘れていたわけじゃない。

だから、早く奈々ちゃんに会って本当のことを話さなくちゃいけない。

兄貴の『月光』を届けなきゃいけない。

……だけど。

俺はずるいから、先延ばしにしてしまう。

奈々ちゃんに嫌われたくなくて。

この恋を終わりにしたくなくて。

嘘をついてでも、奈々ちゃんを独り占めしたいと思うのは、6年前も今も一緒だ。

本当にずるい。


奈々ちゃんのおばあちゃんが亡くなった。

すぐにでも飛んで行って傍にいてあげたかったけど、怖くてそれもできない。

でも少しして、奈々ちゃんからあのメッセージが届いたんだ。

『今すぐ会いたい』

奈々ちゃんの気持ちに、ちゃんと応えたい。

好きだよ、ってちゃんと伝えたい。

これから先、ずっと傍にいてあげたい。

だから、俺は『鈴木理人』に戻らないと。

たとえ本当のことを知って、奈々ちゃんに嫌われてしまうとしても。

*****






< 187 / 210 >

この作品をシェア

pagetop