初恋をもう一度。【完】
「…………そっか。もう、いないんだ……」
奈々ちゃんは、淡々とした表情で「そっか」を繰り返した。
まるで懸命に言い聞かせているみたいで、心臓が掻きむしられるように痛い。
「……ねえ、理人くんは、どうしてわたしのことを知ってるの?」
「それは俺が……俺が、6年前に奈々ちゃんと音楽室で会ってた『鈴木くん』だからだよ」
「…………そう、だったんだ……」
奈々ちゃんは俺の言葉を咀嚼するように、ゆっくりと呟いた。
俺は全ての真実を、最初から順を追って説明していった。
第2音楽室で兄貴と間違われたこと。
あの日、誤解を解くタイミングを失ったまま、奈々ちゃんに恋をしてしまったこと。
本当のことを言えないまま、何度も会いに行ったこと。
話しながら、6年前兄貴にもこんな風に説明したことを思い出して、懐かしくて涙が出そうになった。
奈々ちゃんはたまに頷きながら、俺の話を黙って聞いてくれた。