初恋をもう一度。【完】

◆◆◆◆◆

年末年始は、とても静かだった。

喪中だから、明けましておめでとうも、おせち料理もなかった。

けれど「数の子だけは食べよう、おばあちゃんも大好きだったし」と母が言って、数の子だけは食べた。

大晦日の夜、祖母と一緒に浸けてある数の子をこっそりつまみ食いしたのを思い出して、泣きそうになった。

祖母が死んでしまった淋しさは癒えない。

お葬式をしても、きらきら星やパヴァーヌを弾いても癒えない。

年が明けたって癒えない。

きっと、この先も癒えることなどないのだ。


理人くんに渡されたCD―Rを聴いたら、彼が言った通りベートーベンの月光が入っていた。

とても規則的で、淡々としていて、それなのに叙情的で胸を打つ。

そのピアノは、感情をそのまま表現した理人くんの弾き方とはまるで違うのに、同じ音色だった。

やっぱり兄弟だ。


月光は最愛の人に送る曲。

聴いていたら、自然と涙が零れた。

素敵なプレゼントをありがとう。

湊人くんが弾くピアノ、生で聴いてみたかった。
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