初恋をもう一度。【完】
──どうしてだろう。
今の彼女には一度きりしか会っていないのに。
周りにはこんなにもたくさんの人がいるのに。
俺の目はすぐに、奈々ちゃんのことを見つけられるんだ。
新幹線の改札口。
奈々ちゃんは大きな柱にもたれかかって、俯き加減で立っていた。
「奈々ちゃん」
俺が声をかけると、奈々ちゃんは耳に指していたイヤホンを抜きながら、ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には涙がたまっていて、今にもこぼれ落ちそうだった。
「……2人のピアノ、聴いてたの」
「うん」
「2人共、そっくりな音で弾くよね」
「そっかな? 言われたことない」
「そう? こんなにそっくりなのにね」
奈々ちゃんは首を傾げて言った。
「兄貴の方が上手いとしか、ずっと言われなかったからなあ」
「悔しかった?」
「ううん、全然。ピアノもサッカーも勉強も、何でもできてすげーなって」
「ふふ。自慢のお兄さんだったんだね」
奈々ちゃんは、静かに笑った。