初恋をもう一度。【完】
「奈々ちゃん……」
「……ごめん、なさい……なんでもないの」
慌てて涙を拭って、隣に立っている鈴木くんに無理して笑顔を向けた。
「なんでもなくないでしょ?」
鈴木くんは優しく笑うと、わたしの頭をそっと撫でてくれた。
幸せなのか悲しいのかわからなかった。
ただ心臓が痛くて、涙はなかなか止まってくれなかった。
だんだんと日が暮れて、電気のついていない第2音楽室が、少しずつオレンジに染まっていく。
そろそろ部活に戻らなきゃいけない。
でも、まだもう少しだけ、ここにいたい。
「奈々ちゃん」
「…はい」
「ごめんね。俺、引っ越しの準備あるから、そろそろ帰らないと」
「…うん。わたしもそろそろ部活に戻らなきゃ」
わたしは鼻をすすりながら立ち上がった。
「じゃあわたし、戻るね」
そう言ってピアノから離れようと歩き出したら、
「待って、奈々ちゃん」
鈴木くんが、わたしの手首を掴まえた。