初恋をもう一度。【完】
「……鈴木くん?」
「……俺も。俺も奈々ちゃんのために、ピアノ弾いていい?」
鈴木くんがわたしのために……。
胸がじんと熱くなった。
「……うん…………ありがとう」
嬉しくて、なのに悲しくて、また泣きそうになりながら必死で笑顔を作った。
鈴木くんは、ピアノの前に腰を下ろした。
「なにかリクエスト、ある?」
「鈴木くんが弾いてくれるなら、なんでもいい」
わたしが言うと、彼は少し目を細めて笑った。
「うーん、じゃあねえ…………」
すうっと息を吸い込んで、彼は鍵盤に手を添える。
「奈々ちゃん、ドビュッシー好き?」
「うん。ドビュッシー弾いてくれるの?」
「俺にとって、奈々ちゃんと過ごした時間は……こんな感じ」
「私と過ごした時間?」
鈴木くんは答える代わりに、音を鳴らした。
溶けてしまいそうな最初の和音だけでわかった。
彼が弾いてくれるのは、ドビュッシーの『月の光』だ。