初恋をもう一度。【完】
温かく包み込むような、夢みたいな音。
鈴木くんの綺麗な指先が、鍵盤を慈しむように撫でる。
そうして奏でられるのは、柔らかな光の洪水だ。
奈々ちゃんと過ごした時間。
こんなに夢心地な曲を、そう言ってくれた。
……私も。
私も夢みたいな時間だった。
ありがとう、鈴木くん。
聴いていたら、また涙がこぼれてきた。
「いつか、また会おうね」
弾き終えた鈴木くんは、また明日も学校なのにそんなことを言った。
「……また、明日でしょ?」
わたしが言うと、彼は「そうだね」と低く笑った。
そして、わたしの耳元に顔を寄せて、
「ごめんね」
小さく呟いて、第2音楽室をあとにした。
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