初恋をもう一度。【完】
「じゃあ鈴木くん、みんなに一言挨拶してくれる?」
「挨拶? ……うーん、こういうの照れるんだよな」
鈴木くんは、頬をぽりぽりと掻いた。
「えーっと、まあそんなわけで、転校することになりました。引っ越し先は東京だからあ、栃木弁バカにされないか心配なんさ~」
わざとらしい栃木弁を使いながら、明るい笑顔を浮かべる。
「あとはあ……えっと、なんだっけ……あ! 俺がいなくなって淋しくても泣くなよ。以上」
男子達から「泣かねーよ」「お前が泣くなよ」などと野次が飛ぶ中、鈴木くんはペコリとお辞儀をして自分の席へと歩く。
一瞬だけ、鈴木くんがこちらに視線を向けたから、バチッと目があった。
そして、彼はふにゃりと笑う。
本当に一瞬だった。
でもまるで、時間が止まったようだった。
鈴木くんの深くて柔らかいピアノの音色が、聴こえた気がした。