初恋をもう一度。【完】

曲のタイトルは何も表示されない。
 
とりあえず再生ボタンを押してみる。

…………。

少しの沈黙のあと、鳴り始めたのはピアノの音。


──ああ。

その音色ですぐにわかった。

これは、鈴木くんのピアノだ。


いつの間に……?

でも、そんなことはどうでもいい。

彼からのプレゼントは、サティの「ジュ・トゥ・ヴ」だった。

あなたが大好き、君が欲しい、と訳される、とても美しいワルツ。


あなたが大好き。

……わたしも。

わたしも鈴木くんが大好きです。


胸がじーんと熱くなって、でもそれは、すぐに痛みに変わっていく。

「柔らかくて、いい音だねえ」

そう言ったおばあちゃんのお腹に、わたしは抱きついて顔を埋めた。

「……奈々、なんかあったんけ?」

「…………おばあちゃんっ……す、鈴木くんがっ……ひっ……く………すず、き……くん……うわぁぁぁん」


切なくて苦しくて。

どうしようもなく悲しくて。

おばあちゃんに頭を撫でられながら、わたしはまるで子供のように、声を上げてわんわん泣いた。

*****



< 69 / 210 >

この作品をシェア

pagetop