初恋をもう一度。【完】
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鈴木くんがいなくなった夏は、部活に打ち込んでいるうちに、あっという間に終わった。
すごく暑い夏だったのに、色だとか温度だとか、なんだかうまく思い出せない。
電気を付けても少し薄暗い音楽準備室で、わたしはひたすら練習していた。
「奈々ちゃん、最近真面目だね」
有希ちゃんからそう言われて初めて、自分が練習をサボらなくなったことに気づいた。
そういえば終業式以来、いや、正確に言うと最後にピアノの前で鈴木くんに会って以来、わたしは第2音楽室の扉を開けていない。
どうやら無意識に避けていたらしい。
もしもあのドアを開いたら。
わたしはきっと、あそこに詰まった思い出に捕まってしまって、きっと動けなくなってしまうのだろう。
部活の行き帰り、校庭の脇を通ると、よくサッカー部の練習を見かけた。
いつ見ても当たり前のように鈴木くんの姿はなくて、なのに当たり前のように練習をしている。
わたしは、鈴木くんがいないことを当たり前だと受け入れられる日が来るのだろうか。