初恋をもう一度。【完】

3年生になっても、変わり映えのない日々がどんどん過ぎていく。

わたしは朝起きて学校に行って、授業が終われば部活に出る。

鈴木くんがいなくても、わたしの日常は何も変わらない。

──だから、だんだん麻痺してくる。

鈴木くんに会いたくて仕方ない気持ちは変わらない。

彼がいないことに慣れたわけでもない。

でも……。

たぶんこの先、鈴木くんには会えない。

あの夏から1年が過ぎて、高校受験を意識し始めた頃、わたしはそれをやっと受け入れ始めた。

鈴木くんが「大好きな人」から、だんだんと「大好きだった人」に変わっていく。

なんだか怖かった。

『いつかまた会おうね』

そう言ってくれた彼の気持ちを、裏切ってしまう気がしたからだ。

でもそれは、もしかしたらわたしにとって、とてもいいことなのかもしれない。

いつまでもあの第2音楽室に心を閉じ込めていても、わたしはもう卒業するし、わたしの未来にはきっと鈴木くんはいないのだ。


中学校卒業の日、わたしは1年半以上ぶりに、第2音楽室のドアを開けた。

あの時と何も変わらない景色、でもそこに鈴木くんはいない。

ピアノに座り、擦り切れるほど聴いた「ジュ・トゥ・ヴ」をたどたどしく弾いた。

あなたのことが大好き、でした。

大切な初恋の思い出に、鍵をかけた。

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