初恋をもう一度。【完】
日が落ちてすっかり暗くなった道を足早に歩いた。
日中でも十分寒いのに、日が暮れればさらにぐっと冷え込むからたまらない。
家に着いたら電気が真っ暗で、余計に寒さを感じた。
母は昨日から肺炎になってしまった祖母の元に行っていて、まだ帰っていない。
父はまだ仕事だし、ここ最近は忘年会もあって帰りが遅いのだ。
誰もいないリビングに明かりを灯して、暖房のスイッチを入れると、ひんやりと冷たいピアノの前に座った。
本当はもうテスト期間が始まるから勉強しなくてはいけないけれど、なんとなくそんな気分じゃない。
祖母は大丈夫だろうか。
ピアノの冷えた蓋を開けたら、しんと静まり返った部屋にカタンと小さく音が落ちた。
何か弾こうと思ったのに曲が思いつかず、なんとなく右手でドレミファソを繰り返していたら、不意にドの音から始まるある曲を思い出した。
ドド、ソソ、ララ、ソ……
きらきら星だ。
祖母がいつも練習していた曲。
でも今は弾けないし、もう二度と弾くこともない。
別れの覚悟なんて、どうやってするのだろう。