初恋をもう一度。【完】
何曲か適当に弾いていたらようやく母が帰って来て、母が買って来たお惣菜で簡単な夕食を済ませた。
おばあちゃん、具合どう?
訊きたかったけれど、怖くて訊けないでいたら、母の方から「そんなに心配しなくても大丈夫そうだよ」という言葉をもらって、少しだけ安心した。
2階に上がり、さすがに勉強しようと机に向かったら、傍らでケータイがブンブンと震えた。
『奈々ちゃん、もう家?』
「うん、今ごはん食べ終わったとこ」
鈴木くんからだった。
「鈴木くん、バイト終わった?」
『うん。俺も今、夕飯食べたとこだよ』
「おつかれさま」
『奈々ちゃんも。おばあちゃんの肺炎、具合どうなの?』
「そんなに大したことみたい」
『そっか、なら安心だね。よかったね』
鈴木くんは何でも気にかけてくれる。
祖母のことは特にそう。
まるで彼が弾くピアノの音みたいな深い優しさは、わたしの不安を受け止めて、簡単に包み込んでくれるのだ。